第10回研究会「自撮りコミュニケーション技術と「盛り」文化」

6月22日(水)17:10〜18:55

講師 久保友香氏(メディア環境学者)

http://cinderella-technology.com/

著作『「盛り」の誕生 女の子とテクノロジーが生んだ日本の美意識』から、日本に特有の「盛り」文化の発展について久保先生にレクチャーをいただきます。久保先生の「シンデレラテクノロジー」をキーワードに、容姿とアイデンティティの関係に科学技術が何をもたらすのか、リアルとバーチャルにおける自己とは何かといった問題について考えていきます。

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 今回の講義では、日本の壁画や絵巻、浮世絵などにおいてデフォルメされている特徴を工学の研究手法で数値化し、日本人の美意識や、若い女性の「盛り」について紹介された。

 90年代からプリクラ機の登場に伴い、メイクや写真の加工技術で顔を「盛る」という文化が日本の女子たちの間で広がっている。さらに、近年、ソーシャルメディア(以下SNS)において、デジタルカメラやスマートフォンのカメラ機能を利用した自撮り(selfie)が猛烈な勢いで増殖し、カメラの性能や加工技術の向上したこともあって、顔や目といったパーツからシーンやライフスタイルまで写真や動画を加工し、「盛る」文化はより広い年齢層に浸透していった。なぜ自撮りや「盛る」文化は衰えが見えず、むしろより盛んになってくるのか。その背景には、久保氏が指摘しているように、SNSの普及によって、コミュニティ主義が世界的に広がっていることがある。

 SNSが流行る前に、女子高生にとって重要なコミュニケーションのツールの一つは切手のような小さなプリクラシールである。女子たちはプリクラ帖と呼ばれる小型ノートにプリクラシールを丁寧に並べてスクラップし、仲間同士とつながっている。SNSの普及によって、こうしたつながり方も変化しつつある。SNSに顔加工アプリで変換した自撮りの写真を投稿し、不特定多数の人と共有することは、自己承認意欲を満たすためだけでなく、その動機を支えているのは、ネットワークの中で擬似的な社会関係を結びたいというコミュニケーションへの欲求である。このような独特な写真行為について、馬場(2018)は「受容されるイメージ」を先回して表現しようとする傾向があると指摘する。そのプロセスは、他者が見たいと思われる画像へと修正を施し、完璧なイメージに仕上げて呈示しようとするものだ。つまり、自撮りは、あるがままの姿ではなく、閲覧者がそうあってほしいというイメージを先取りして、それに合わせて表現する行為だといえる。
 山竹(2011)は、「盛り」を加えた自撮りの写真行動には、自分自身を肯定的に呈示し、また肯定的に見るという、自尊心の肯定的な感覚を求める欲求が存在すると述べています。確かに、コミュニケーションを最重要と考える「承認不安」と「空虚な承認ゲーム」の時代で、自己開示することで承認を得る事は快楽なことである。しかし、他人からの承認を求めすぎると、本当の自分を失ってしまうリスクがそこには潜んでいるのではないかと思われる。

参考文献:
馬場伸彦(2018)「自撮りと女子文化:演技する身体と自己イメージの操作」 『甲南女子大学研究紀要 文学・文化編』:47-55
山竹伸二(2011)『「認められたい」の正体承認不安』講談社

地球社会研究専攻修士課程 李子涵