11月6日(水)14:30~17:30
場所: 株式会社村田製作所 みなとみらいイノベーションセンター
講師 浅川雄一郎さん(元 村田製作所経営戦略部、現米IT企業ハードウェアエンジニア)
松田朋春さん(Spiralなどのプランナー、詩人、多摩美術大学非常勤講師)
本研究会では、「五感のみらいず〜社会と技術/指と言葉〜」と題して参加者が先端技術を実際に体験し、感じ取ったことを使ってワークショップ・ディスカッションを行いました。。村田製作所様の協力のもと横浜・みなとみらいにある株式会社村田製作所 みなとみらいイノベーションセンター内Murata Interactive Communication Space (https://solution.murata.com/ja-jp/collaboration/facility/mix/)にて研究会を開催し、先端技術を実際に体験するだけではなく開発者自ら技術について説明していただく貴重な機会を設けていただきました。
研究会第1幕として、宮地尚子(本学社会学研究科 教授)より「科学と社会の未来研究センター」について説明があり、浅川雄一朗氏より本研究会の趣旨説明・講演がありました。
第2幕では、”GOKAN tech workshop”として、参加者は開発者をはじめとする方々から説明を受けながら、実際に五感に関する技術を体験しました。
第3幕では、松田朋春氏よる「白い紙ワークショップ」が行われ、8種類の紙を自ら触れ、感じ分けながら言葉にしていました。こちらの成果物は『指と言葉』として公開いたします。
最後に、研究会で参加者が同じ体験をしたことを踏まえながら、ディスカッションを行い、科学と社会の未来を構想するうえで示唆に富む議論が交わされました。
「白い紙ワークショップ」にて参加者がつくった詩を、紙ごとに一編の詩として構成された全八編の詩集です。こちらの詩集は松田朋春氏がまとめてくださりました。(こちらをクリックすると詩集を読むことができます)
参加記①はこちら(▼をクリックすると本文を折りたたむことができます。)
今回の研究会を通して、自らが感じたことを、言葉にすることの難しさと大切さを学んだように思う。会場には村田製作所が開発している製品や技術が展示されており、研究会のはじめに実際に見学し、体感する機会があった。このときMREやパプティクスといった技術に触れた感覚を近くにいた松田さんに聞かれた。実際に触れるなかで確かに振動の変化や、物質の硬さの違いを指先で感じることができたが、その変化や違いは何なのかがうまく言語化できなかった。確かに違うのは分かるのだけど、何が違うのかが説明しきれないような感じがした。そしてそのあと松田さんに技術の仕組みを教えていただいたことで、自分の感覚が何であったのかが分かって納得したのだが、自分自身で言葉にできなかったことが心残りだった。言い換えれば、自身が五感で知覚したものを感じ分け、そして言葉にすることができていなかったのだと思う。
そのあと松田さんのワークショップに参加したが、それぞれ質感が異なる8枚の白い紙を指先で触りながら、自身の感じたことを言葉で表現する作業を通して、学ぶことが多かった。決められた答えがあるわけでもなく、最初のうちは言葉にするのが難しく感じたが、思い切って自分の感じたこと、イメージしたことを紙に書いてみると、意外と自分の中で納得するような表現ができたような気がする。また参加者には同じ紙のセットが配られた一方で、それぞれ感じ方や表現のしかたが異なり、同じものでも同じではないというのが興味深かった。このように自らの感覚がどのようなものなのか切り分けながら言葉にしていくこと(ほかの参加者の言葉を借りれば、感覚を翻訳すること)、そして一人ひとりの感じ方の違いを知っていくことは、社会と技術との関係性を構想していくうえで、鍵になるのではないか。
研究会の感想共有のところで、村田製作所の社員の方が、技術に偶然があってはいけない、一人ひとり感じ方が違うのはご法度だとお話しされていたのが印象的だった。話が少しズレるが、私たちの社会では技術発展の恩恵を多分に受けて、便利な生活を送れている。日常生活の中で、あらゆる情報があふれ、私たちは一定の速度感をもって多くのことを知覚している。ただ、その速度感ゆえに、知覚したことを深く考えることはないだろうし、知覚を生み出す技術の仕組みもよくわかっていないように思う。ここで話を戻すならば、今回の研究会のように、偶然がないはずの技術に触れて、何を感じ・考えるのか、一人ひとり異なる感覚から技術の在り方をどのように意味づけていくのか、このコミュニケーションの反復こそが、人間が広い意味で豊かに生きていくためのイノベーションを生み出す一つの手がかりになるように感じる。
参加記②はこちら(▼をクリックすると本文を折りたたむことができます。)
今回は初の対面による研究会で、しかも村田製作所みなとみらいイノベーション
センターという特別な場所で開催された。
まず、元村田製作所の社員で現在はAppleにおつとめの浅川雄一郎さんが全体のファシリテーションをしてくださり、村田製作所の最先端の科学技術のショールームを体験したり、研究開発チームの方によるプレゼンテーションをお聞きした。そのプレゼンでは、電磁波が加わることでその物の柔らかさが変化するという新しい技術についてだった。そして、将来それがどのように社会の中で有効活用できるか模索中であることも話されていた。思えば、わたしたちの身の回りにある人工的に作られたものは全て、経年劣化や激しい気温の差が生じない限りは、ずっと一定の固さである。このパソコンのキーボードが、突然ふにゃふにゃになると大変だ。この椅子が、急にふわふわ柔らかくなったり、コンクリのようにカチカチになってしまったならば、おちおちこの椅子に身を任せることができない。物の柔らかさ/固さの変化にまつわる研究は、ある意味わたしたちの暮らしの前提を揺るがすものだと思った。その中で、わたしが関心を持ったのは、柔らかさ/固さの指標についてだ。科学的に数値化した指標があるものを、赤ちゃんのほっぺた、羊羹、消しゴムなどの具体例に置き換えられていたのだが、それは、その物に触れることなく、柔らかさの共通項を人と共有するアイデアだろう。しかし、実際は、ほっぺたも羊羹も消しゴムも個々の種類によって異なる弾力であるので、ここでは、あくまでそのもののイメージの共有が試みられている。数値化できるものをイメージに置き換えた時、実はそれが曖昧であるにもかからわず、一定程度の共通して理解した感覚があることに興味をもった。例えば、オノマトペで言い表した場合(日本語という制
約はあるが)、よりグラデーションのある指標を言葉で作り出せるかもしれない。
後半は、アートプロデューサーで詩人の松田朋春さんによる「白い紙ワークョップ」が行われた。異なる質感の8枚の白い紙に触れ、その感触を自由に言い換える。文末を「~のような白い紙」と定型にすることで8文の詩ができあがるというものだ。8枚それぞれの肌理や手触り、色の違い、表裏の違い、固さや張りを確かめ、それを描写するのみならず、過去の記憶からこの感じに近しいものを捻り出す。触れるという身体的で直接的なことをしながら、脳内の記憶を探るというチグハグな感覚が楽しく、そしてどこか懐かしいような感覚になった。参加者の方の詩もどれも素晴らしく、どこかその人の子どもの頃が想起させられるようなものも多かった気がする。松田さんは、このワークショップを通じて「品質教育」という視点を提示されていた。芸術体験の機会はある一方で、それを享受する際の判断基準を養う品質教育は疎かにされてきた現代なのかもしれない。
最後に告白すると、今回のタイトル「五感のみらいず」を「五感のみずいらず(水いらず)」とずっと読み違えてしまっていた。夫婦水いらず、親子水いらずなど、親密さと少し排他的な意味合いもあるこの言葉だが、この誤読から五感の未来を想像するならば、他の水が流れぬほどに、視・聴・嗅・味・触覚が溶け合うような感覚や技術が、わたしたちの未来の生きる術となりうるのかもしれない・・・!