7月26日(水)17:10〜18:55
第15回研究会 「自然ドキュメンタリーの現在と未来」
講師 岩崎弘倫氏(NHKエンタープライズ 自然科学番組 エグゼクティブ・プロデューサー)
ドキュメンタリーは自然や社会にみられる諸現象をとらえ、メディアを通して私たちの前に映し出してきました。映像技術やインターネットの発展により、自然を「観る」行為がより一般的で身近なものになりつつある中、自然ドキュメンタリーは何を映し出すことができるのでしょうか。NHKとBBCの共同制作「プラネットアース」の制作に携わり、世界初の深海でのダイオウイカの撮影に成功するなど、自然ドキュメンタリーのプロフェッショナルである岩崎氏をお招きし、謎に満ちた深海を紹介していただきながら、地球と生命の関わりを考えます。
当日は、まず、岩崎先生に表題のご講演をいただき、研究会参加者による質疑応答と、先生を交えたディスカッションを行いました。
本研究会は、一橋大学大学院社会学研究科のプロジェクト「先端課題研究21」として、学生も受講することができます。学生参加者のレポートより、こちらに参加記を掲載いたします。
参加記はこちら
ダイオウイカの撮影において、科学者の協力のもとで、さまざまな技術が動員されることで達成されたということが本講演での主題であった。その技術は何度も試行錯誤することで得られた者であった。また、撮影の際にはより高画質のカメラではっきりとダイオウイカがわかるような工夫もされていた。今回のこの講演での内容は、科学の社会実装・社会実践であると思われる。というのも、ダイオウイカという、これまでその存在については囁かれていたものの実際には撮影されることはなかった対象を、これまでの科学に基づく技術を使って、試行錯誤しながら撮影に成功したからだ。
さらには、ダイオウイカを追うことや、その他講演冒頭で紹介されていたようなドキュメンタリー番組の作成は、自然界における現象や出来事、自然界の日常をメディアの力を使って私たちの元へ届けるという役割を果たしていることも実感できた。そのリアルを伝えるために、講演で紹介されていたようなカメラ・映像技術を用いて私たちの元へ届けるために、科学技術が使われている。このことにより私たちが、より自然を身近に感じることができるようにも思われる。これは、ある意味皮肉かもしれない。科学技術といった人工物の発展により、私たちは自然とかけ離れた生活を送りつつある。しかしながら、その科学技術を使うことで、自然を身近に感じようともしているのだ。科学技術を発展させることは、ある意味で自然から私たちを引き離す部分があるのにも関わらず、他方では、私たちは自然への何らかの憧れを抱きその解明のために科学技術を使うのである。このような科学技術の発展がもたらす矛盾にも関わらず、ダイオウイカの撮影やドキュメンタリー番組の制作は、私たちに自然とのつながりを取り戻すきっかけとなる重要な役割を果たしている。科学技術が進歩することで、未知の生物や自然現象にも迫ることができ、私たちの理解を深めることができる。これは、科学が自然の解明を目的とした営みであることからも言えるだろう。
また、これらの科学的な取り組みには科学者だけでなく、映像制作や情報伝達の専門家、メディア制作チームなどの多岐にわたる専門知識と協力が必要である。さらに、社会全体の理解や支援があって初めて、こうした取り組みが成果を生み出すことができる。科学者やメディアに関わる技術者の努力だけでは、大きな成果を上げることが難しいことがある。講演で取り上げられたように、科学技術を用いてダイオウイカや自然のリアルな姿を映像化し、私たちの目の前に届けることで、自然への興味や関心を喚起させることができる。これにより、自然に対する尊敬や保護の意識が高まり、私たちはより持続可能な未来を築くための行動を促される可能性も開かれるだろうと感じた。